文理スクール&キタン文理予備校文系教科長
星煌学院客員講師 山田 智規
「共通テストは2021年から始まったのに『本当の共通テストは2025年から』ってどう言うこと?と思われるかもしれません。確かに共通テストは2021年から始まりましたが2024年まではそれまでのセンター試験と共通テストの移行期間のようなものでした。なぜそうなったのかと言いますと、実は2025年1月受験者が高校1年次に学習指導要領改訂による新課程の受験生だったのです。彼らは新課程つまり真の共通テスト1回生となるため変更のない箇所があるものの丸っきり新課程の過去問というものはこの世の中にないまま受験を迎えたことになります。BUNRI生はその中でも大変多くの生徒が健闘して各校舎に帰って来ました。その前に真の共通テストまでの大学入試の変遷について振り返っていきましょう。推薦入試の内容もガラっと変わっていますが、一般入試だけでも例えば10年前のセンター試験受験者とでさえも中身が随分変わって来ていることに注目してください。
大学入試の簡単な変遷
●1979〜1989 共通一次試験
主に知識重視の問題がほとんどで暗記や基礎的な学力を測定する問題が中心。用語や公式を覚えていれば解ける問題が多い。一問一答レベルがかなり多い。数学では公式を覚えるだけで解ける問題が多数。
↓ 難化(特に2005年あたりから少しずつ難化、2010年代からさらなる難化)
●1990〜2020 センター試験
知識だけでなく、思考力や応用力が問われる問題が増加。選択肢の中に引っかけ問題が増えるなど、難易度が徐々に高まった。
例:理系科目では複雑な計算が必要な問題が出題。
↓ 難化を超えて一部の教科は激しく難化
●2021年〜2024年旧課程共通テスト←ここがいわゆるセンターから共通テスト移行期間
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●2025年〜新課程共通テスト←ここが真の共通テスト
文章読解力や論理的思考力を重視する問題が増えた。特に英語や国語、地歴公民では複数の文章を横断して答える必要がある問題や、英語ではリスニングの比重が増加。また長文の読解や複雑な文章の要旨をつかむ力が問われるだけではなく選択肢において似通って迷う選択肢が続出。小手先のテクニックでは全く歯が立たず、共通一次試験やセンター試験では「基礎学力試験」という立ち位置だったのに対して共通テストでは「高大接続改革」により、学力だけではなく思考力・判断力・表現力を含んだ「総合的な学力」を測定する方向に変化したという点において共通テストは全く「基礎学力試験」ではないことに注目して欲しい。
共通一次→センター試験→共通テストと時代を経るにつれ問題が難化!
併せて2025年の共通テストからは必須となる受験科目の変更や教科の増加が行われ完全なる「脱ゆとり」✕「総合的な学力」が盛り込まれた。
2025年からの共通テストにおける受験科目増加や変更の一例
●「日本史」または「世界史」→「歴史総合、日本史探究」または「歴史総合、世界史探究」
歴史総合では日本史および世界史や政治経済など他教科との横断的な知識が必要に。日本史選択の人は世界史等の知識も必要になってくるようになった。(2024年までは世界史または日本史のどちらかの受験でした。)
●新たに「情報I」教科追加され、国公立の97%が必須科目としている。
つまり主要5教科という言葉は死語になったと言えようか。現在は「主要6教科!」が常識
●他にも公民に「公共」が新設。旧現代社会、政治経済、倫理など教科横断型の知識や考え方が必要になった。
●数学IIB→数学IIBCに変わると同時に(数学Cが復活。ただし旧数学Cとは履修分野が異なる。内容が増えたのは言うまでもない。昔の数学Cは理系のみでしたよね。今は文系でCまで習うんだ!( 一一))制限時間が60分→70分に※数学I Aはすでに70分
●国語が大問4つ構成→大問3に「実用的な文章」が追加され5題構成に。大問が1つ増えたにも関わらず制限時間は80分から10分のみ延長して90分に
●英語が大問8構成になると同時に大問の2つがより日常的な学習現場を再現するような新設問題を出題へ(実は2023年秋に大学入試センターが『試作問題』として公表していた)
ちなみにセンター試験ラスト年と最近の共通テストの単語数は倍ほど多くなっている!制限時間は160分になると思いきや80分のままという驚愕の事実。etc…
ここまででもお分かりになることですが今の受験生は「本当に大変」です。受験勉強にフライングはないですので、早く始めたほうがはじめた分だけ良いに決まっています。
それではもう少し具体的な話へと進めましょうか。2025年から共通テスト国語において第3問に実用的文章が出題されるようになりました。これはなにかを成し遂げたり、計画をするために探求をさせるという高校での授業現場を入試で再現するような出題の仕方をします。他の大問でも一部出題されますが共通テストになってから見受けられるようになったのは、結果だけではなくプロセスです。例えば本年が新設の第3問は以下のように「インフォームドコンセント」という外来語をわかりやすい日本語で言い換えるべきの是非や言い換えた場合そのような立場により、どのような表現が好ましいのかということについて集めた資料を手がかりに論じたものを加筆、訂正するという問題が出題されました。「文章だけが本文」という従来の考え方からの脱却の象徴でもあると言えそうです。(以下、国語第3問および第4問の一部を引用)
また共通テスト古文・漢文においては複数テクストが本文で出題されました。古文では複数テクストの共通点と相違点について生徒がグループを作って話し合っている様子が出題され、共通テストが目指しているような授業の様子が再現された問題と言えよう。
英語リーディングは大きな大問の変更点が2つあり、一つは次の第4問のように今までの共通テストではなかった問題が出題されました。上述の国語第3問における実用的な文章にも傾向がやや似ており生徒が提出した英作文を教師が添削をして訂正させようとしている場面の問題が出題された。
2つ目の変更は最終第8問です。第8問は「宇宙の開発」について複数人の意見や後半は2つの資料に基づいて, 3段階の過程を経てレポート概要を作成する問題で今回新設された問題として出題されました。本文は800語を超え、今回の8つの大問の中で最大でした。STEP1では,所属や考えの異なる5人の意見を把握して,それぞれの主張を読み取る問題。STEP2は,先程の5人の中から自分の立場に賛成する人を選び,その共通項を問う問題。STEP3では,自分の立場の根拠となるものを2つの追加資料から選び,アウトラインを完成する問題となっていました。STEP2は3つのマーク番号が完答していなければ点数を与えないところがやや難しかったかもしれないですね。個人的には全体を通してアメリカ英語だけではなくイギリス英語を採用した文章であったり、設問の質も良く、リーディングだけではなく記述をすることも意識したような良問の選択肢でした。本文を言い換えたり、設問の文法を理解していないと解けない問題もあり、努力した生徒は報われる形となりました。今後ともこのような問題が続くことを祈っています(笑)ちなみに共通テストのリーディングはその名の通りすべてが長文です。従来のセンター試験のように英文法単体問題がなくなったためセンター試験最終年と比べて文字数は約2倍となっています。しかしながら制限時間の80分は変更がありません。では早く読めば良いかと言ったらそうではなく、文字列を追うのではなく中身を読解したり、必要な情報以外を削ぎ落とす必要があるため情報の取捨選択が必要なのです。
実はここまでで取り扱った新設の国語第3問および英語リーディングの第4問および第8問は急に出題されたわけではなく2023年秋に大学入試センターが『令和7年度試験の問題作成の方向性、試作問題等』として「試作テスト」を作成し公開していた。授業では記載されていたことを踏まえて試作テストの解説を行った他、類似問題を何度もパターン演習したためBUNRI生の得点率は素晴らしく8割を超えていた。どんな入試でも闇雲に勉強するのではなくアンテナを張りながら受験に対する情報を見逃さないことが受験では命取りになります。
事前告知されていた通り本年度より大問数が4→5へ
にもかかわらず制限時間は100分ではなく80分→90分に
現代文第1問近代以降の文章(評論)は昨年よりも600字以上減少したものの約3800字の文章量は相当訓練していないと理解できないであろう。時間内に解けば良いということだけではなくしっかりと本文を把握して理解をするという点において、例年よりも時間がかかった受験生も多いのではないかと思われる。特筆に値すべき点は今回の本文作者が自身の主張を補強する形で過去最高数の他者文献を引用していた点である。本文では「まなざしの暴力」について述べておきながら、「まなざしの受動性」を含めて、「まなざしの能動的」な要素にも言及しており、展開の仕方が少し難解だった。設問は良問であった解きやすかったですね。選択肢については少し正誤判断が難しかったところもあった。(ps BUNRI生は引用文を含む文章へのアプローチを原則毎回授業で行っていたため、なんなくクリアできたと思われる。)
第2問の小説は標準的でオーソドックスな内容であった。原因、心情、動作が繋がっていることや、その動作がどんな象徴を表しているかを読み取れれば問題なく解答できたはずだ。もちろんBUNRIでの授業をしっかり受けていたらの話ではあるが。
そして今回は初の第3問が新設されたことが一番の変化点となる。詳しくは「初耳」の方に記載したので必読を!
古典の第4問(古文)と第5問(漢文)はともに試行調査でも出題された「共通テストらしい」複数の文章を組み合わせた問題形式であった。多少、人間関係が複雑であったため人物関係図やリード文を把握しなければ戸惑う人もいたのではないかと思われる。上述のように複数テクストで出題されたため類似点を意識しながら読み進めていかなければ古文も漢文も読解には苦労してしまう。問題内容については基本的な単語の意味を正確に踏まえれば解ける問題が多く特段応用力を試される問題は無かった。今までの共通テストの傾向から逸脱する問題はなかったが、和歌の内容や敬語の敬意の方向を問う問題など一部の受験生がそこまで勉強しきれていないところにまで問題が出題された。単語、文法(特に助動詞、助詞、敬語、和歌の技法などの)などの基礎固めをしてから適宜過去問や類似レベルの演習を使った学習をして欲しい。
ps BUNRI生は試行調査を含めて2024年中に本試験だけではなく追試験や2017年、2018年の試行調査(共通テストはこんな問題を出します!という予告的立ち位置で当時の全国の一部高校生に実施)を解説した。また引き継いだ問題も多くあったため必要に応じてセンター試験の過去問も授業で使用した。また古典文法は2024年3月より全国で販売されている『スパイラル古典文法(映像学習によるエドュプラス)(←すみません宣伝させてください笑 実は講師は私、山田智規です笑笑 祝!全国講師デビュー!笑)を共通テスト古文の授業テキストと連動してしながら効果的に学習してもらいました。2025年の共通テストは3年生の共通テスト古文で扱った内容とほぼ同一ストーリーの内容が出題された。
今回は新課程共通テスト初年度であり第3問が増えるにあたって他の大問がそれぞれ1問ずつ減ると思われていたが、各選択肢が5→4になったため難易度は昨年よりは易化した。だが他の教科でも言えることであるが2年目は相当難化することが容易に予想される。選択肢を5つに戻したり(その場合は1問ずつ減る可能性は高いが)、選択肢に惑わせられることはほぼ確実であるので受講生にはその対策を徹底的に講じていくので安心してほしい。
重要事項 センター試験時代を含め毎回、新課程受験者の翌年は難易度が難化している。2026年1月の共通テスト受験者は相当の対策をしなければ志望大学に合格することは難しい。2026年は2025年よりも「難しい」ではなく「かなり難しい」意識を持ってほしい。BUNRIの授業ではその予想を「想定外だった」とならないように徹底的に対策していくので絶対についてきてほしい。
数学ⅠA(数学Ⅰでも共通問題)では3つの噴水のうち一番高い真ん中の噴水の高さを求める問題が出題された。もちろん実際に公園の噴水に入っていけるわけではないため、噴水は放物線を描くことを下に2つの仮定をしながら立式する問題が出題された。従来の数学よりも数学は案外、身近な場所でも使えるんだというメッセージが伺われました。(二人の男女が公園の噴水のベンチで座って何やってんの?というツッコミを省く)
“There is the glorification of technology instead of art.” (The New York Times, International Edition, Monday, January 20, 2025) 共通試験のリスニングはこの文言の通り、文部科学省の主導の、英語による「情報処理」能力を高めるために行われている。今年度について言えば第4問、第5問、第6問等いずれも図表を読み取らせながら必要な情報を聞き取らせてゆく問題がそれに当たる。リスニングを受験する人は意識すべきことであろう。
全体の傾向は、大問数6、設問数37で前年度と同じだったが、第5問では新しい出題形式が現れた。即ち大学入試センターが公表した試作問題Cの形式が出題されたのだが、特に難しいわけでもなく、これまでと同じ程度のリスニングの力が問われただけである。因みに共通試験1週間前の当予備校の冬期講習ではこの形式での答え方を練習していたので、受験生たちは余裕を持って聴けたのではないだろうか。 各問題別にみていくと、第1・2問は音声が2回流れる問題であり、落ち着いて聴けば点数の取り易い問題である。第1問A(4問、各4点)、B(4問、各3点)。問8は1回目の音声では少し戸惑うかもしれないが、大丈夫、落ち着いて聴いてください。第2問(3問、各4点)。前年より1問減ったが、問11は工夫が見られる問題である、先に述べた「英語での情報処理能力」を試す問題への布石だろう。第3問(6問、各3点)以降流れる音声は1回に減るので緊張するかもしれない。音声に答があるわけではないので、内容を理解した上での解答が要求される良問。また問17では”Havin personal details known”、「have + 目的語 + 過去分詞」の文法力が尋ねられてもいる。第4問A(問18~21は全問正解で4点、問22~25は各1点)は図表読み取りと必要な情報を聴き取って書き込む問題である。問22~25の問題については、情報を選択肢に書き込むか図表に書き込むか毎年悩むのだが、今年は図表に書き込む方であった。この問題はどちらに書き込むかが勝負であり、間違えると全滅する危険がある。第4問B(1問、4点)は点数の取り易い問題。Seeing is Believing、自分でやって見よう。第5問(問27は3点、28~29・30~31全問正解で各2点、新形式問32は4点、問33は5点)特筆すべきは問33の配点が5点に上がったことである(前年度は4点)。しかも会話形式へと変わったので難易度も上がったと言えるだろう。しかし今回の第5問は内容、語彙の難易度どれをとってもレベルの低い問題である。確かに英語の量はそれなりにあり、”Reducing this waste would help protect the environment.”などと環境への意識があるように見せかけているのだが、「ガラスに関する講義」(2024)、「アジア象に関する講義」(2023)と比べると内容は易化した。出題者は反省すべきである。第6問A(2問、各3点)、B(2問各4点)。目新しいこと言えば、会話する者全員が「会話が終わった時点で」一致したことくらいだろうか。
講評(安江) 歴史総合(大問1、25点分)からは世界史の理解を前提とした問題も見られ、従来のような日本史のみの学習法では限界がある。細かい学習の必要性はないが、日本史や政経倫理など隣接科目と適宜関連させつつ、理解を深める必要がある。ちなみに通年開講科目の日本史や集中科目の政経倫理では分野横断的な学びを積極的に取り入れている。
全体的な傾向として、問われ方などの細かな変化はあるものの大幅な内容の変化はない。用語の暗記だけでなく、時代を横断して内容を理解していなければ解けない問題は近年多く出題されている。その一方で単純な用語の理解も求められているので、普段の学校の授業で細かい理解が求められる。
本塾開講科目の日本史では時代を横断した流れを理解するとともに、南山大学などの過去問も積極的に用いることで細かい知識との関連付けを行っていく予定である。
公共・政経(安江) 公共分野として新たに加わった第1,2問は事前に公表されていた試作問題に沿った内容になっていた。第1問は政治分野から、第2問は倫理分野からの知識が求められる問題が見られた。旧課程の倫理、政経ほどの深い知識は求められないが学習は必要である。 第3問以降は問われ方については微妙な変化が見られるものの、内容については従来通りである。相変わらず抽象的な資料が多いため単に用語を暗記しているだけでは対応できない。 開講科目の政経・公共においては用語の背後にある精神などにスポットライトを当てた授業を展開している。現代社会に生きる人間としての基本的な精神を構築できているか否かが高得点への鍵となるだろう。
大問数は4題
第1,2問が数学Ⅰの分野、第2,3問が数学Aの分野で全て必答問題である。
第1問
[1]因数分解し、方程式の解を考える問題であり丁寧な誘導がつけられているので解きやすかっただだろう。
[2]2つの三角形について外接円の半径正弦に値、辺の長さの比較する問題であった。やはり丁寧な誘導がつけられており三角比の定義や正弦定理を利用(2)は(1)を応用することができるかどうか(3)も(1)の結果を利用し正弦定理、余弦定理を用いる問題。解きやすい問題であったであろう。
第2問
[1]噴水の水が描く曲線を放物線とみなして噴水の高さを考える問題であった。誘導に従って考えていけば良いのだが立式の仕方によって計算量に差がでたであろう。
[2]データ分析、外れ値と仮説検定が新たに出題されたが、誘導に従っていけば例年より計算量もすくなく、短時間にクリアーできたのではないか。
第3問
図形の問題で空間図形の出題であったので、戸惑った受験生も多かったであろう。(1)は証明問題であり、誘導通りに進めは良かった。
(2)は五面体の辺の長さを求める問題で丁寧な誘導があり考えやすかったであろう。
第4問
くじに関する料金の期待値についての問題であった。当たり、ハスレの本数ではなく3つの確率の値が与えており、(1)の結果が(2)以降に影響するため(1)の確率を正しく求められていれば最後まで難しくはなかったであろう、
以上、何度も「丁寧な誘導」を使いましたが、本当に素直に従っていけば例年より楽であったであろう。
大問数は7題
第1,2,3問が数学Ⅱの分野。第4,5,6,7問が数学BCの分野で、3題を選択する形式であった。方針が丁寧に示されていた。
第1問
三角関数に関する方程式の問題 sinA=sin Bの形の方程式を丁寧な誘導に従えば解きやすい問題であった。
第2問
常用対数表を利用して行う問題であったが計算量も少なく、式変形も複雑ではなく誘導にそって解いていけば良い問題であった。
第3問
F(x)とG(x)の誘導関数は等しいので2つの関数の差が定数であると気づけば難しくない。(1)は具体的関数で考える問題。(2)(ⅰ)は(1)を踏まえて関数のグラフを考える問題で計算がほとんどない。(ⅱ)は関数や極大値を定積分を用いて表す問題でやや難しい。
第4問
数列で格子点の個数の問題が久しぶりに出た。
(1) 等差数列とその和の問題
(2) 等比数列とその和の問題
(3) Σk、Σk2の公式である。誘導通り解いていけばクリアできる。
第5問
(1) は正規分布と二項分布、(2) は母平均の信頼区間に関する問題、(3) は仮説検定に関する問題。いずれも誘導に従って解くと容易に解ける。標準的な問題であった。
第6問
ベクトルとしては、球面上の3点が正三角形をなす条件を示すという目新しい問題であったが、やはり丁寧な誘導があり、これに従えば計算を進めるのに必要な式は(1)で立式され(2)(3)では、それを利用するだけなので容易に解ける。
第7問
与えられた複素数α、β、γに対しA(α)、B(β)、C(γ)とし、直線ABと直線ACが垂直となる条件や「半直線のなす角」というテーマで教科書でも扱われているがやや難しかった。
以上、やはり「丁寧な誘導」という言葉を多く使ったが、例年に比べて解きやすかったと思われる。
全体の構成は大問5問(第5問,第6問から1つ選択)で、
第1問:物質の構造・状態(小問集合)
第2問:物質の変化と平衡(小問集合)
第3問:無機化合物
第4問:有機化合物
第5問:エネルギー分野を含む複合問題
第6問:旧課程履修者選択問題
となっており、大問数・構成は概ね例年通りである。本年は新課程の初年度であり、旧課程からエネルギー分野の内容が変更されているため、第5問と第6問が選択問題となっているが、内容はエネルギー分野の部分が「熱化学方程式」で表されているか「反応エンタルピー」で表されているかの違いだけで内容的には全く同じ問題となっている。
・第1問
難易度はそう高くはない。問5ではa・bに分けて海水からの塩化ナトリウムの生成について2種類の製法を題材にしている。aの問題は図2のグラフから蒸気圧を調べるだけの問題だが、問題文で装置の説明をしているため解くのに不必要な情報が多く必要な情報だけを汲み取れるかどうかが重要である。bの問題は「逆浸透法」というなじみの薄い操作を行っているが、問題文にも「ファントホッフの法則が適用できる」と書かれているため、ファントホッフの法則をきちんと覚えていれば特に問題なかっただろう。
・第2問
第2問の中でも難しかったのが問3の電離平衡とpHの問題である。テーマだけを聞けばよくある問題だが、希釈する過程での水溶液とpHの関係を表すグラフを選ぶ問題となっていて、希釈するだけなら簡単だがグラフを選択する問題となって悩んだ受験生も多いだろう。
・第3問
問4では酸化還元反応を利用したヨウ素の製法を題材とした問題が出題されている。各設問で実際の用例に則した問題の作りになっているため問題文は少し長めになっているが、問われている知識も量的関係も読み取れればシンプルなものになっている。
・第4問
基本的にはシンプルな知識問題が多い。問2のアクリル酸メチルとアニリンの反応や問4cのポリビニルブチラールといった教科書に記載のない反応・物質の出題があったが、見知らぬ物質に気を取られず、知っている知識や与えられている情報だけで解けるという前提で臨むことができれば問題なく解けただろう。
・第5問
原油の分留によって得られる物質について、有機・酸化還元・エンタルピーなど様々な分野から考える問題となっている。序盤は簡単な知識問題となっているが、問3c,dの理論の計算問題が少し入り組んだ構造となっているため、情報整理力が試される問題だと言える。
馴染みのない装置や物質が出てくるとそれだけで難しく見えたり、未知の問題のように感じたりするかもしれないが、結局は教科書に載っている内容以上の知識を要求されることは基本的にはないため、落ち着いて問題文を読むことが重要である。
全体の構成は大問4問で、
第1問:小問集合
第2問:力学
第3問:A.熱力学 B.波動
第4問:電磁気学
となっており、大問数は例年通りであるが第3問がA・Bの二部構成となっており、第1問以外で原子分野を除く全単元が出題された。
・第1問
例年通りの小問集合で、この大問で原子分野の問題が1問出題されるのも昨年と同様である。
問3のモーメントの問題ではモーメントを考慮した力の合成が出題されたが、剛体を題材とした問題ではモーメントのつり合いか重心などが考えるものが多いため、対策していなかった受験生も多いだろう。
・第2問
単振り子の問題で、題材自体は非常にシンプルであり、特に問1・問2は復元力、変位、角振動数を求めるだけの簡単な問題である。
・第3問
A.
P-Vグラフをもとにした一般的な熱力学の問題。すべての設問において基本的な問題で構成されているのでP-Vグラフの読み方、気体の状態方程式、熱力学の第一法則を抑えてあれば完答できただろう。
B.
水面波の干渉の問題。事象としては単純だが波の変位の式と絡めた出題となっているためそこで困った受験生もいただろう。特に問6では点Pで干渉の条件を変位の式で表したものが与えられたが、強め合うための条件も問題文で与えられているため難易度はそこまで高くない。変位の式に気圧されず問題文が読めれば十分解けただろう。
・第4問
導体レールと移動する導体棒を乗せた誘導起電力と電流が磁場から受ける力の問題。この形式の問題もよくある問題であり、導体棒を一定の速さで動かすことで誘導起電力も一定に保っている。しかし今回はこの装置にコンデンサーやコイルが組み込まれており、誘導起電力が一定でも流れる電流が一定でないため磁場から受ける力が時間とともに変化するようになっているため、他の大問に比べると難易度が高くなっている。
「第1問」
小問集合。最初の問1だけは知識が無いと解けない問題だが、問2〜4に関しては書いてあることを理解できれば解ける問題である。
「第2問A」
スーパーマーケットの情報システムに関する問題。特に知識は必要なく、情報システムの理解ができれば容易に回答できる。
「第2問B」
おつりのシミュレーションの問題。 個人的にこの問題が面白かった。次ページ参照
表やグラフが何をどのように表しているかを理解できれば解ける。
「第3問」
工芸品の作成に対する作業日程の割り当てのアルゴリズムをプログラムで記述する問題。
「第4問」
旅行者に関するデータの様々なグラフから読み取ることができる内容を問う問題。
(全体概観)
知識問題はほとんどなく、文章や表、グラフが理解できれば解ける問題ばかりであったため、知識ではなく読解力や論理的思考力が試された。大問2から大問4まではすべて身近なものや出来事に結びつけた問題であったため、日常生活で触れるシステムや目に入る表やグラフを理解しようとする習慣をつけておくべきである。